がんカルテ 東京の病院に在籍する子宮体がん手術の医師 » 治療の前に知っておくべき子宮頸がんのこと » 子宮体がん治療における骨髄抑制

子宮体がん治療における骨髄抑制

子宮体がんの治療では、薬物療法や放射線治療が行われることがあります。これらの治療は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えることがあり、そのひとつとして「骨髄抑制」が起こる場合があるのです。ここでは、子宮体がん治療における骨髄抑制の概要、日常生活でできる対策について解説します。

がん治療における骨髄抑制とは

骨髄抑制とは、薬物療法や放射線治療などの影響により、骨髄の機能が低下し、血液細胞(白血球・赤血球・血小板)を正常につくれなくなる状態を指します。骨髄は血液細胞を生産する重要な組織であり、この働きが抑制されると、血液中の各成分が減少します。

その結果、白血球の減少による感染症のリスク上昇、赤血球の減少による貧血、血小板の減少による出血傾向など、さまざまな症状が現れる可能性があります。治療中は、血液検査によって骨髄抑制の状態を定期的に確認することが一般的です。

骨髄抑制の原因

殺細胞性の抗がん剤

殺細胞性の抗がん剤は、細胞分裂が活発ながん細胞を攻撃することを目的としています。しかし、この薬剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞の中でも分裂が活発な細胞にも影響を与えることがあるのです。

血液細胞をつくる骨髄は、細胞分裂が非常に活発な組織のひとつ。そのため、殺細胞性の抗がん剤の投与によって骨髄の機能が抑制され、血液細胞の生産が低下することがあります。これが骨髄抑制の主な原因のひとつとなります。

分子標的型の抗がん剤

がん細胞の増殖に関わる、特定の分子を標的にして作用する抗がん剤です。薬剤の種類によっては、正常な骨髄細胞の機能にも影響を及ぼす場合があります。

殺細胞性の抗がん剤とは異なる作用機序を持ちますが、結果として白血球・赤血球・血小板などの血液細胞の生産が低下し、骨髄抑制の状態となることがあるのです。薬剤の種類によって、骨髄抑制の程度や起こりやすさは異なります。

免疫治療薬

自身の免疫システムが、がん細胞を攻撃する力を高める薬剤です。一部の免疫治療薬において、副作用として骨髄抑制が報告されるケースがあります。

免疫系が活性化する過程で、正常な細胞を含めて影響が及ぶ可能性が考えられます。ただし、骨髄抑制の頻度や程度は、殺細胞性の抗がん剤や分子標的薬とは異なる傾向があるため、使用する薬剤ごとの特性を理解しておくことが重要です。

骨髄抑制が原因で起こる症状

感染症

骨髄抑制により白血球、特に好中球が減少すると、細菌やウイルスなどに対する体の抵抗力(免疫機能)が低下します。普段は問題にならないような病原体にも感染しやすくなる状態です。主な症状としては、38℃以上の発熱・悪寒・寒気・咳・のどの痛み・下痢・排尿時の痛みなどが挙げられます。

感染症は、口の中・肺・皮膚・尿路など体のさまざまな部位で起こる可能性があり、重症化することもあるため発熱などの兆候が見られた場合は、速やかに医療スタッフに相談しましょう。

貧血

骨髄抑制によって赤血球の生産が減少すると、貧血の状態となります。赤血球に含まれるヘモグロビンは、肺で取り込んだ酸素を全身の組織に運ぶ役割を担っています。赤血球が減少すると、体が酸素不足の状態になり、息切れ・疲労感・倦怠感・立ちくらみ・めまい・動悸・頭痛などの症状が現れやすくなります。

赤血球の寿命は比較的長いため、治療開始直後よりも、治療を継続する過程で徐々に症状が現れることが一般的です。無理をせず、体調の変化に注意することが大切です。

出血

骨髄抑制により血小板が減少すると、出血しやすくなったり、血が止まりにくくなったりします。血小板は、血管が損傷した際に出血を止める役割(止血機能)を持っています。

血小板が少なくなると、歯磨きによる歯ぐきからの出血、鼻血、軽い打撲による内出血(あざ)、皮膚の点状出血、血便、血尿などが起こりやすくなります。日常生活のわずかな刺激でも出血の原因となることがあるため、注意が必要です。出血が続く場合や、普段と異なる出血が見られる場合は、医療スタッフに知らせることが重要です。

骨髄抑制に備えてできること

骨髄抑制は、白血球、赤血球、血小板といった血液成分の減少によって引き起こされます。見た目ではわからず、初期には自覚症状が現れにくいことも特徴です。

そのため、薬物療法中は定期的な血液検査が行われます。ご自身の採血結果に関心を持ち、血液成分がどの程度減少しているかを把握することが、体調管理の第一歩となります。血液成分の減少の程度に合わせて、日常生活での行動を調整し、以下のような対策を心がけることが大切です。

白血球の減少時

白血球が減少すると感染症にかかりやすくなるため、感染予防が重要です。基本となるのは、こまめな手洗いやうがい。また、外出時はマスクを着用し、人混みを避けることも有効な対策となります。

体調を崩している人との接触はできるだけ避けましょう。皮膚を清潔に保つために入浴やシャワーを心がけ、保湿も行います。食事は、新鮮な食材を使用し、加熱するなど衛生面に注意します。歯磨きも丁寧に行い、口の中を清潔に保つことが感染予防につながります。

赤血球の減少時

赤血球が減少し貧血の症状がある場合は、無理をしないことが基本です。倦怠感や疲労感がある時は、十分に休息をとるようにしましょう。立ちくらみやめまいが起こりやすくなるため、急に立ち上がったり、体の向きを変えたりする動作は避け、ゆっくりと行動することを心がけます。

階段の上り下りや長時間の歩行なども体に負担がかかるため、体調に合わせて調整することが必要です。入浴時は長湯を避け、適温に設定するなど、体に負担をかけない工夫も大切です。

血小板の減少時

血小板が減少している時は、出血を予防することが重要です。日常生活でのケガに注意し、転倒しないよう足元や周囲の環境に気を配りましょう。

歯磨きの際は、歯ぐきを傷つけないよう柔らかい歯ブラシを使用します。鼻を強くかむことは避け、ひげそりは電気カミソリを使用するなど、皮膚や粘膜を傷つけない工夫が求められます。便秘は排便時にいきむことで出血の原因となるため、水分や食物繊維を適切に摂取し、必要に応じて下剤を使用するなど便通を整えることも大切です。

こんな時はすぐに主治医へ連絡を

骨髄抑制の期間中は、体調の変化に注意が必要です。以下のような症状が見られる場合は、感染症や貧血、出血の兆候である可能性があるため、すぐに主治医や医療スタッフへ連絡してください。

これら以外でも、ご自身の体調で普段と違うと感じることや、気になることがある場合は、早めに相談しましょう。

ピックアップ関連記事