子宮体がんの治療で用いられる抗がん薬(化学療法)や分子標的薬は、がん細胞だけでなく、活発に細胞分裂を繰り返す爪の細胞にも影響を与えることがあります。ここでは、爪の変化や治療中であっても行えるセルフケアについて紹介します。
抗がん薬治療などにより、爪を作る細胞の働きが障害されると、爪に様々な変化が生じます。具体的には、爪が薄くなる、もろくなる、割れやすくなる二枚爪、表面にスジや溝ができる、といった変形が見られるでしょう。
また、メラニン色素を生成する細胞が活発化することで、爪が黒っぽく変色する(色素沈着)こともあります。爪が伸びるのに伴い、これらの変化は徐々に目立つようになります。特に手の爪の変化は人目に触れやすく、患者さんの心理的な負担になることもあります。
子宮体がん治療で使用される薬剤の中にも、爪に影響を及ぼす可能性のあるものが含まれます。一般的に、細胞の増殖を抑えるタイプの抗がん薬は、爪の成長にも影響を与えやすいとされています。
爪に障害を起こす可能性が指摘されている抗がん薬の例としては、以下の通りです。
ただし、副作用の現れ方や程度には個人差があります。
※参照元:国立がん研究センター「生活の工夫カード」【PDF】(https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/division/support_card/1.pdf)
爪のケアの基本は、まず清潔を保つことです。特に爪の周りに炎症(爪囲炎)などが起きている場合は、細菌感染のリスクが高まります。手を洗う際は、爪の間も意識して石鹸で丁寧に洗いましょう。
熱すぎるお湯は皮膚の乾燥を招くため、40℃未満のぬるま湯が適しています。洗浄後は、清潔なタオルで擦らずに優しく押さえるように水分を拭き取ることが大切です。入浴時には爪の状態を観察し、変化がないか確認する習慣をつけましょう。
爪やその周りの皮膚が乾燥すると、ひび割れや二枚爪、ささくれ、爪の剥離などが起こりやすくなります。手洗いや入浴後、また乾燥が気になる時には、こまめに保湿剤を塗りましょう。
保湿剤を塗る際は、爪全体と爪の根元(甘皮部分)まで丁寧に行き渡らせ、優しくマッサージするように塗り込む良いでしょう。水仕事をする際は、保湿剤を塗った後に綿の手袋をし、その上からゴム手袋を着用すると、保湿と保護が同時に行えます。
治療によって爪が薄くなったり、もろくなったりしている場合は、日常生活での物理的な刺激から爪を守ることが重要です。家事や手作業をする際はもちろん、就寝時にも綿やメッシュ素材の手袋や靴下を着用すると、無意識に引っかけて爪が割れてしまうのを防げます。
爪のひび割れや先端の補強には、液体絆創膏を使用するのも一つの方法です。靴は爪先を圧迫しない、クッション性のあるものを選び、爪への負担を減らしましょう。
爪の変色をカバーするだけでなく、ベースコートやトップコートを併用することで爪を補強し、割れにくくする保護の役割も果たします。ただし、マニキュアを落とす「除光液(リムーバー)」に含まれるアセトンは、爪を乾燥させ、刺激となる可能性があります。
除光液を使用する場合は、アセトンフリーの製品を選ぶと良いでしょう。また、治療中はにおいに敏感になることがあるため、臭いの少ない水溶性マニキュアも選択肢です。消毒用アルコールで落とせたり、お湯やシールのように剥がせるタイプもあり、爪への負担を減らせます。
爪が弱っている時の爪切りには注意が必要です。爪切りによる「パチン」という衝撃で爪が割れやすくなるため、爪ヤスリを使用して一方向に優しく削り、形を整える方法が望ましいです。
もし爪切りを使用する場合は、入浴後など爪が柔らかくなっている時に行うと良いでしょう。深爪は皮膚を傷つけたり、巻き爪の原因になったりするため避けてください。指先の皮膚と同じくらいの長さか、少し長め(指先から1〜2ミリ程度)に保ち、角をヤスリで滑らかに整えるのが理想的です。
治療中は、ジェルネイルを避けましょう。ジェルネイルの施術では、密着を良くするために爪の表面を削る必要があり、元々薄くなっている爪をさらに弱くしてしまいます。
また、プライマーやリムーバーといった使用する薬剤が強い刺激となる可能性もあるのです。免疫力が低下している時期には、爪とジェルの間に隙間ができると感染症のリスクが高まります。さらに、急な体調変化による入院時に、専用の器具がないと自分で除去できない点も問題となります。
マニキュアやつけ爪(ネイルチップ)、ジェルネイルは、特定の検査時に避ける必要があります。代表的なのが、血液中の酸素飽和度を測定する「パルスオキシメーター」という機器です。この機器は指先に光を当てて測定するため、爪に装飾があると光が透過せず、正確な数値が測定できなくなる可能性があります。
急な体調不良で検査が必要になる場合に備え、特に治療中や入院時には、爪には何も塗らないか、すぐに落とせる状態にしておくことが望ましいです。
爪の変化だけでなく、爪の周りに痛み、赤み、腫れといった炎症(爪囲炎)が見られる場合は、我慢せずに主治医や看護師、皮膚科医に相談してください。特に分子標的薬の副作用として見られる爪囲炎は、痛みが強く、歩行や細かい手作業が困難になるなど、生活の質に影響を及ぼす可能性があります。炎症や痛みが強い場合には、塗り薬や内服薬による適切な治療が必要となるため、自己判断で対処せず、早めの相談が大切です。